国際法務担当者の筋トレ

三度のメシよりネゴが好き(ネコではない)。某社法務担当が日々気になるトピックを少しだけ深掘りします。

♪武勇伝、武勇伝

ロドニーキング事件についての講演、行ってきました。 タイミングがよすぎるんで、銃乱射と関係あるんかなーと思ったんですが、どうやら今CriminalLawをやっている一年生向けにいくつか論点がつまっている生の派手な事件を当事者である元・検察官が紹介しようという趣旨だったようです。 結論からいうと、すごかったもうすごかった( ゚д゚)ポカーンですよ。ほんと。 ロドニーキング事件っちゅうのは、ロス暴動のきっかけとなった事件で、この裁判で無罪判決が出た後、憤怒した暴徒がロスの町を襲い、商店を大挙して襲ってめちゃめちゃにして商品もってっちゃうわ、あらゆるもんに火つけるわ警察官は何も出来ずただ撃ち殺されるだけだわ、もう無法地帯。戒厳令。これが6日間。パパ・ブッシュは陸軍を大量投入し、ようやく収束したっちゅう事態。これが1992年のお話。最近なのがまたコワい。ていうか私このときアメリカにいたよ!?このときもテレビ見てなかったから、全く知らなかったけど。 ことの発端は1991年3月3日の深夜12時前後起きました。ロドニーキングは2人の友人と車で高速道路を法定速度を超えて走っていました。ネズミ捕り中のハイウェイパトロールに見つかり、停止しろと命令されたものの、彼は停まらなかった。彼は仮釈放中で、しかも酔っ払っていたから。派手なカーチェイスをやらかし、20人もの警察官に追跡された後、普通の道で彼は停止しました。そこで御用になるんですが、逮捕の際に警察官たちが殴る蹴るの暴行を加えたんです。結果、ロドニーは顔の骨15箇所、足首、足を骨折。腹部もなんかなった。全身青あざだらけ。この一部始終を現場のそばのアパートの住人がSONYのビデオカメラで撮っていたんです。 次の日、そのアパートの住人はまずロス市警に電話して「逮捕の状況を撮ったビデオあるんだけど、いる?」と聞いたんですが、断られた。その住人は次にテレビ局に電話をかけて同じ申し入れをしたところ、こっちの食いつきはよかった。その日のうちから、白人の警官が立ち上がれない状態の黒人を取り囲んで、何度もこん棒で打ち据えたり、足蹴にしている映像が繰り返し繰り返し放映されることとなりました。 州地裁では、白人のしかも警察官中心の地域に管轄が変更されたことや、検察の訴訟戦略上の問題もあって、警察官4人とも無罪になりました。その直後、前述のロス暴動が起きるわけです。 講演をした先生は「連邦」検察庁の元検事なので、ロス暴動のきっかけとなった裁判は担当していません。「私は負けたほうの裁判にはかかわってないぞ」と念を押してらっしゃいました。 一事不再理は?という疑問が当然出てくるんですが、どうやら高度の公益性が必要とされていれば例外的に州で起訴された事件を再び連邦地裁で扱うことが可能らしいんです。この事件は暴動のきっかけとなったくらいですから、この点を問題なくクリアしたそうです。 裁判の話を聞いている間に、何度も何度も例のアパートの住人の撮ったビデオを見せられたんですが、観れば観るほど気持ち悪くなる映像でした。グロみたいに即効性のあるインパクトはないんですが、観れば観るほど人が本質的に有する凶暴性・残虐性が目に付くようになるからだったのかな。 ビデオの映像の前に、どうやらロス市警の内規で「脅威となる被疑者」に対して使うことが許可されているTASERという武器を使用して、ロドニーの無力化をはかったらしいんですが、あんまりうまくいかんかったのも、ロドニーがぼこぼこにされる要因になったそうです。 TASERの前は、同じような状況下でチョークホールドを使用することが許可されていたそうなんですが、警官のチョークホールドが下手なんで、よく被疑者が逝ってしまっていたそうです。だれかぁぁ、猪熊治五郎を束にして箱につめてロスに送ったげてぇ。 連邦の検察側は、ビデオの後半のロドニーが完全に無抵抗になってからも警察官たちは殴ったり蹴ったりしていたという点に注目して4人中2人の有罪判決を勝ち取ったそうです。 あ、そうそう。判決の言い渡しの日、連邦地裁の屋上には検察官たちを安全に脱出させるためのブラックホークと暴動を鎮圧するためのスナイパーの一団が待機していたそうです。
銃乱射事件や9・11直後のこともそうなんですが、アメリカはとっても危うい均衡の上になりたっている国であることを再認識させられる話でしたね。この国の存在自体、人間誰しも本能の核のかなり近いところに飼っている差別感情を、理性(教育とか法律とか)で乗り越えることができるのかを試している壮大な実験なような気がしてきました。